産経新聞 朝刊 2002年(平成14年)5月5日


勉チャーのススメ
起業家育成へビジネス教育 大阪の2中学



 中学生を対象に起業家意識を育てる「ベンチャー教育」が、4月から大阪府堺市の初芝中学などで始まった。日本の中学が年間を通じたカリキュラムを組み、体験学習などを通じて生徒に起業のノウハウを学ばせる取り組みは、全国でも珍しい。経済産業省は青少年への起業家教育が、ベンチャー振興を促す風土づくりに役立つと見て起業家教育を支援する構えだ。

■意識改革
 「担任の先生を“商品”にみたてて、百貨店や農家に売り込んでみてください」

 初芝中学のベンチャー授業では、1、2年の生徒たちがグループに分かれて課題に挑戦していた。生徒たちは、自由にアイデアを出し合うブレーンストーミングン後に、“商品ポスター”を製作したり、先生の長所をたくみにアピールするなどプレゼンテーション(提案)をこなす。

 授業を指導するのは、数学や国語など教科担任の教員。教員らは米国のベンチャー授業の実情を視察したり、大阪ガス系列のベンチャー支援機関・京都リサーチパーク(KRP、京都市)から講師を招いて指導法の研修を受けるなど意識改革に取り組んだ。

 同校を運営する学校法人・大阪初芝学園の椋本彦之理事長は、外食産業のグルメ杵屋社長。自らの起業体験を振り返り「青少年からベンチャー教育を実施し、自立を促すことが必要」と授業の導入に踏み切った。

 カリキュラムと教材はKRPが作成。内容は、アイデアを商品化し、ビジネスにするために問題点分析を行う▽市場調査を実施し、消費者ニーズ(要求)を知る▽自分の考えを他人に伝えるための理論立てた方法を学ぶ−などとなっている。

 一方、大阪市中央区の追手門学院大手前中学でも、今春から中学2年を対象に「起業家育成コース」を開設した。受講する生徒は36人。

 授業では生涯プランを発表させたり、初歩的な簿記やビジネス英語などを学ばせる。米ワシントン州の提携校に留学しビジネス関連の科目を履修させたり、現地の会社、店舗経営社の協力を得て職場体験をさせることも計画している。

■日米格差
 経済産業省は日本の開業率(全事業所に占める新規事業所の比率)が米国の4分の1以下で、このところ廃業率が開業率を上回っている現状に危機感を抱いている。

 中小企業長の調査によると、日本で開業率が低迷している理由として、事業者も資金の提供者も「起業に失敗したときの生活不安」を上げる声が最も多く、「市場競争の激化」や「サラリーマン志向が強い」などが上位を占める。

 長引く不況にあえぐ大企業がリストラを進め、雇用吸収力を失う中で、中小企業は日本経済の担い手としての役割が期待される。ところが起業家意識が希薄なままではベンチャー振興策の効果が上がらず、日米の経済格差はますます広がる。

 このため経産省は、各都道府県の教育委員会に対してベンチャー教育に就いての意識調査に乗り出すなど、本腰を入れ始めた。11年度から小中高校向けの教材を製作しており、ベンチャー教育の普及を目指す方針だ。

 ただ、こうした取り組みに対し、文部科学省は「創造性を高める教育は必要だが、他の教科とのバランスも考慮しなければならない」(教育課程課)と、あまり関心を示していない。

 「本来は経産省と文科省が連携し、全国の小中高校にベンチャー教育の導入を呼びかけることが、起業家教育への早道なのだが・・・」と、縦割り行政の弊害を指摘する声も出てきている。