仮想起業経営プログラム「バーチャル・カンパニー」利用


日本経済新聞 朝刊 2002年(平成14年)1月22日

Next関西
小中高生に起業家教育
自分で考える力養う



 高校や小中学校で起業家教育に取り組む動きが加速している。地域の協力を得ながら特産物を仮想上で売買する仮想企業の運営などを通じて、経済や社会の仕組みを肌で理解してもらうのが狙いだ。小さい時から児童・生徒が自分でものを考えて活動できるように鍛えて、自立できる力を養う。こうした積み重ねにより、将来の起業家予備軍の育成にもつなげたいという願いも込められている。

 「酒呑童子」など鬼伝説で名高く、かつては養蚕が盛んだった京都府大江町。同町にある府立大江高校では、昨年度から仮想企業を経営するプログラムを活用した起業家教育を実施している。今年度は前年度の2倍の56人が
“会社経営”に挑戦中だ。

 このプログラムはベンチャー支援の京都リサーチパーク(KRP、京都市)などが企業運営という共同作業を通じて高校生などが自分の役割や責任を認識し、問題かいけるの能力などを養えるように開発した。商品取引のほか、人件費や配当金の支払いなども仮想上で実施。地元企業などから講師を招き、起業や商品企画、ホームページ作成の指導も受ける。正規授業として実施する学校がほとんどという。

 大江高で企業経営に取り組んでいるのはソフト経済科の生徒。1989年設置の同科では情報処理や簿記などを学んでおり、3年生14人が1組で作業し今年度は4社を設立した。社長や副社長、経理部長などの役職をつくり、生徒が株主や社員となる。

 「鬼に金棒チョコ」など鬼伝説にちなんだ商品を売る会社の社長を務める五百蔵晃嗣君は「買い手が何を求めているかを考えるのが大変だった」という。「社員をまとめる難しさを知った」(花の香り袋を売る会社社長の水野高徳君)との声もあった。

 KRP企画部開発室の原田紀久子マネージャーは「経済や社会の仕組みを理解し、社会で必要な技能を知ることが大切」と説く。担当の大江富士雄教諭は「簿記や会計、情報技術(IT)など技術面だけでなく、ビジネスを総合的に学ぶ環境」で活動することで、何が必要かを生徒自身が考える訓練になると強調する。
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 プレゼンテーションなどの表現力や発想力の養成を重視するのは、大阪市天王寺区の私立興国高校。昨春、起業家コースの位置づけで商業科に代えてITビジネス科(3クラス120人)を開設した。

 同科では情報処理やプログラミングのほか簿記や会計、オフィス実習などを学び、秋の文化祭では仮想模擬店舗も運営した。草島葉子副校長は「ITの授業はベンチャー事業を始める基礎として大切だが、自己紹介など表現力や発想力、折衝力を養う授業はもっと重要だ」と力説する。

 来年度からはプレゼンテーションやマナー実務などビジネスの基礎を教える授業を本格化し、日本実践話力検定試験の合格を目指すなど実践的な内容とする。
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 起業家教育のすそ野は小中学校にも広がっている。大阪府堺市立熊野(ゆや)小学校は、大阪商工会議所などが実施している小学生出店体験事業「キッズ・マート」に参加、24日には近隣の堺東商店街で「ゆやっ子マート」を開業する。「総合的な学習の時間」を活用して4年生以上の3学年142人が、洗剤店や衣料店、食品店など23店舗を出店する。

 子どもたちは昨秋から準備を始め、商店街に出かけるなどで市場調査をしたり、商品の陳列や上手な売り方などを学んできた。「どういうモノがどんなふうにしたら売れるのかを自分で考えることが重要」と川俣徹教頭は言う。こうした経験を経て、「10円がどういう意味を持つか」が少しずつ分かるようになる。

 起業家教育の狙いには「教員や親以外の大人と接し地域社会での自分の役割を知って職業観を磨く」(KRPの原田マネージャー)こともある。それは学校と地域の連携が前提となるが、教員側がどの程度熱心に取り組むかによっても結果に大きな違いが出る。教員を含めた地域社会の認識の高まりが、起業家教育が着実に根付き、成果を生み出していく上で欠かせないだろう。