仮想企業経営プログラム「バーチャル・カンパニー」利用


読売新聞 朝刊 2001年(平成13年)12月22日

こども発ニッポン
10代の起業家期待
社会の体験や知識も必要に



 今年5月。インターネットを通じて香水を販売するベンチャー企業「滋賀サンシャイン」の藤橋北斗社長(18)は悩んでいた。世の化粧品会社のラインアップにはなくて、出せば確実に売れそうな商品はないものか。

 13人に社員が出したアイデアの中から3つを選び、夏休み前に商品化を決めた。異性の気を引くバラの香水、紫外線をカットするラベンダー香水、眠気スッキリのペパーミントの香水。ホームページで宣伝するとともに、電子メールで英文公告をオーストラリアの貿易センターへ送った。秋に入って同国の6社からメールや郵便で注文が届いた・・・。

 「苦労したかいがあった」と振り返る藤橋社長は、実は、滋賀県立大津商業高の3年生。滋賀サンシャインも電脳空間にしか存在しない。同校は、ネット上に仮想企業を設立し、電子商取引を模擬体験する世界規模の教育プログラム「バーチャル・カンパニー(VC)」に加わっている。香水も架空の商品だが、アイデアのよさを気に入ったオーストラリアの大学や高校が、“注文”してくれたのだ。

 今年のVCプログラムには、国内から高校や専門学校など約90校が参加した。日本の事務局をかねる京都市関連の起業家教育センターは、ネット上だけでなく現実の取引も体験してもらおうと、京都市内で先月、見本市を開いた。

 藤橋君らも出店したが、仮想起業ばかりのはずの見本市で、本物の商品を売っている店があった。大江山の鬼退治で有名な京都・大江町の府立大江高校だ。生徒が考えた携帯電話用「鬼のストラップ」が仮想取引でよく売れたため、民芸品店に依頼して製品化。町内の駅や博物館で販売される人気商品になった。同校3年生の五百蔵晃嗣君(18)は「好評なのでやりがいがある」と張り切って売っていた。別の生徒が考えた「リバーシブル・ブラジャー」のアイデアを気に入り、試作品を作った下着メーカーもあるという。

 大手志向、安定志向の強い若者たち。だが、日本を代表する大企業の多くく、戦後、ゼロの状態からベンチャー企業としてスタートした。経済を立て直すため、若い起業家たちの台頭に期待する声は少なくない。経済産業省の委託を受け、起業家を増すための提言をまとめた早稲田大学の松田修一教授が強調する。「起業家に尋ねると、中学校くらいの時の体験がきっかけになって会社を起こした人が多い。だから。早期の起業家教育が必要なんだ」

 私立・千葉国際高(千葉県君津市)は、昨年から今年にかけ、早稲田大の協力を得て本格的な起業家教育プログラムを実施。生徒自身が銀細工などを作製し、ネットを通じて販売した。同校1年の越田孝善君(16)は「毎日夜9時まで学校に残った。つらかったけど、もう1度やってみたい気がする」という。

 15歳の時、サーバー(ネット管理用コンピューター)のレンタルサービスを始めた「クララオンライン」(本社・名古屋市)の家本賢太郎社長(20)によると、10代での起業に必要なのは、ハッキリした目的意識だ。「金銭や名誉欲だけが理由だと、長続きしない」。家本社長は、手術の後遺症による下半身のまひで、2年前まで車イス生活を送ったが外界と自分をつなぐコミュニケーションの道具となったインターネットの潜在能力の大きさに気づき、ネットの力を社会変革に役立てたいと考えたという。

 もっとも、家本社長は、教育現場で広がり始めた起業家教育プログラムの効用には懐疑的だ。「プログラムという枠の中から、常識を超えるような発想は出てこないと思う」と厳しい。起業家教育センターの原田紀久子さんも「ベンチャー育成には直結しないかも」と、限界を認めている。でも、と原田さんは続ける。「参加者の1割が、将来自分も起業したくなった、という感想を抱く。すごく意味のある数字だと思う」

 インターネットやパソコンが身近な道具になり、起業の敷居も低くなったかの印象を与える。だが、実世界の体験、知識・知恵が加わってこそ、ビジネスとしての可能性が開く。一歩踏み出せば、危険や責任も伴うことを忘れてはならない。

 参加者の中から、第二の松下幸之助やビル・ゲイツが生まれてくるかは、道具を使いこなすだけでなく、まさにこれからの、目的意識にかかっている。