仮想企業経営プログラム「バーチャル・カンパニー」使用


日本経済新聞 朝刊 2000年(平成12年)11月30日

関西21C戦略 第2部起業を増やそうE

活性化3つの挑戦
小学生から体験・教育 仮想取引や実習、塾も


 「豊富な品揃えが当社の売りです」。マイク片手に事業計画を説明する「社長」は高校3年生。クラス内に会社に見立てた組織を設けて事業計画書や商品のホームページ(HP)を作成し、パソコンでは仮想取引も行う「バーチャル・カンパニー(仮想企業)」の授業が、京都府立大江高校で9月から本格的に始まった。

 情報処理コースで学ぶ3年生28人が肌着販売と土産物販売の2社を設立。それぞれ営業や経理部、人事部なども置いた。各部署の生徒が話し合いながら、事業計画を立案する。先生からの一方通行ではない授業が進む。京都府北部に拠点を持つグンゼなどからHPの作り方の助言を受けるなど企業とも交流する。

 仮想企業用の教材を作成したのは京都市の起業家育成団体などが昨年春に設立した起業家教育センター(センター長・堀場雅夫堀場製作所会長)だ。「起業に挑む若者を増やすには、10年がかりで意識改革に取り組むべきだ」という持論を持つ堀場会長らが、起業家教育のあり方を研究する。着目したのは海外で普及する仮想企業だ。

 パソコンでの仮想取引は京都、大阪、広島にある2高校・1大学の24の仮想企業とネット上で実施。商品を購入すると仮想の取引口座から代金を引き落とすシステムを使う。このシステムも同センターが開発したもので、教育用に利用するのは国内では珍しい。口座の推移を見ながら生徒が商品の売れ行きを実感できる。

 「自分たちで一生懸命考えて作業をしている。自主的に休み時間も商品開発などに取り組む生徒もいる。」大江高の大江富士雄教諭は生徒が自ら事業を運営する楽しさを知り、自主性を強め始めたことに手ごたえを感じている。

 大阪府池田市にある日清食品の「インスタントラーメン発明記念館」で11月中旬、手動の製めん機などを使って大阪府能勢町立東中学校の生徒約60人が即席めんづくりに挑戦した。大阪商工会議所が今年度から始めた中学生の職業体験の一場面だ。

 同社社員は「身近にある道具を使って起業した」と安藤百福会長のエピソードを交えて創業当時の様子を伝え、これまでの会社見学より事業を起こしたことに重点を置いて生徒に語りかけた。この職業体験で生徒に起業家意識を少しでも持ってほしいというのが大商の狙いだ。

 中学生だけではない、大商は昨年度から小学生が商店街で販売を体験する「キッズマート」も実施している。高校生のようにバーチャル企業をつくれなくても、まず実地体験すれば小中学生でも”商売”の楽しさが学べるからだ。

 託児施設など経営のアルファ・コーポレーション(京都市)は来年春をめどに京都か大阪に子供向けの起業家養成塾を開設する計画を持つ。子供の自由な発想をパソコンなどで表現する授業を始める方針で、子供の課外教育の幅を広げる一環だ。最近のベンチャーブームもあって民間企業も起業家教育に関心を示し始めた。

 しかし、今年度横浜市で先行開設した塾の生徒は3人にとどまる。起業家教育に対する親の世代の関心は決して高くはなく、学校と企業の交流も本格化し始めたばかり。社会全体の起業に対する関心を高め、子供たちの職業体験などの機会を広げることが起業の促進につながる。回り道のようではあるが、最も重要な課題の一つだ。