@「起業家精神」子供たちに触れさせよう

 「グルメ杵屋」社長である椋本彦之さんは、もうひとつ、大阪初芝学園の理事長として教育者の顔を持つ。

 その大阪初芝学園が運営する初芝中学校で、4月13日から新入生らを対象にした起業家教育を始めることにした。中学生の「ベンチャー教室」はちょっと珍しいが、商人の街、関西ならではの試みをもいえそうだ。

 椋本さん自身も「日本一のうどん屋になってやる」という大志を抱き、手打ちうどんの店舗を全国に展開した起業家。「子供たちに若いころから起業家精神をやしなうことが大切だ」と考えて、開講に踏み切ることにした。

 ベンチャー教育は全米の多くのハイスクールなどで実施されている。ノースカロライナ州で、日本貿易振興会(ジェトロ)専門員としいて勤務した柴田純男さんは「公立のグリーンホープ・ハイスクールの1年生に通っていた娘が起業家教育の授業を受けてきた」と話す。授業の中身は、貸借対照表の読み方や資金調達の方法といった内容で「事業計画をつくってこい」という宿題があるという。

 日米の風土の違いについて経済産業省では「日本でも初等、中等教育の場でベンチャー教育を実践し、起業家が尊重されるようにならないといけない」(羽藤秀雄・新規産業室長)と指摘、初芝中のベンチャー教室に全面協力する考えだ。



A先生、企画書作りに挑む
 初芝中学ではベンチャー授業の開講に先立ち、教材製作を手がけた京都リサーチパーク(京都市)の原田紀久子マネージャーを講師に招き、授業を受け持つ教員8人が研修を受けた。教員は国語や数学などの教科担任で、ベンチャー教育に挑戦するのは全員が初めて。

 原田さんはベンチャー教育について、「生徒自らがやりたいことを実現し生計を立てていくことを、授業を通じ支援するのが狙い」と説明。生活環境が、新たなビジネスによってどのように変わってきたかについて、携帯電話やトイレのおしり洗浄機を例に挙げ、新商品やサービスがヒットした背景、理由を考えさせることが重要と指摘した。

 また考えたことを実現するには、“企画書”を作成すること不可欠として、教員らに企画書作りのための課題を提示した。課題は「老人ホームに入所する女性を対象にした新ビジネスを考えてください」。2班に分かれた教員たちからは、毎月1回、エステティックサロンや美容院を体験後、食事階を開く体験ツアー、学校の児童、生徒たちとお年寄りとの交流会を実施するイベント事業−のアイデアが示された。

 これに対し、原田さんは「体験ツアーは『身ぎれいになりたい』という高齢女性の願望に着目したアイデア。イベント事業は『お年よりはキットさびしいのではないか』という発想から出発しており、それぞれ視点が異なる」と解説。そうした視点をはぐくみ、アイデアを膨らませることが大切と締めくくった。



B椋本理事長「わがベンチャー人生」講演

 初芝中学(大阪府堺市)で第1回目のベンチャー教室が13日開かれた。参加したのは1‐3年の全校生徒約130人。1回目の講師は、初芝中学を運営する大阪初芝学園の椋本彦之理事長。

 グルメ杵屋の創業社長でもある椋本氏は、高校卒業後に新聞配達や牛乳配達をした経験を経て事業を起こした自らの“ベンチャー人生”を教材に生徒に語りかけた。

 椋本氏は「お客さんに元気な声で挨拶することで人間関係を築くことができた」と持論を展開。昭和30年代に米国でハンバーガーのチェーン店を視察したことをきっかけにうどん店のチェーン化を思い付いた際も、ダイエー創業者の中内功氏に相談し、事業に踏み切った秘話などを紹介して、「他人の心をつかみ、自分のこころを抑えることがリーダーになる秘けつ」などと呼び掛けた。

 続いて山本繁校長は「ベンチャー教育を通じ『こんな仕事を起こしたい』という夢をそだててほしい」と生徒達を励ました。

 講義を受けた生徒たちは、「最初に苦労しても負けずに頑張りたい」(山本順子さん)、「挨拶で人間関係ができることが大切だと気づきました」(北口果那さん)、「理事長先生にあいさつして褒められたとき、人の心をつかむという意味がよく分かりました」(中川幸多さん)=いずれも3年=などと感想を述べていた。



C起業家7人を授業の題材に
 

 初芝中学のベンチャー教室が18日から、本格的に始まった。

 岩澤歩教諭(国語)が最初に、CD-ROMを使ってスクリーンに起業家7人の顔写真を映し出して、生徒に「どの人のことを知りたいですか」と問いかけた。

 生徒からリクエストの多かった「サングラスのおじさん」にクリックすると、スクリーンに登場したのは、漫画専門の古本店をビジネスにした「まんだらけ」社長の古川益蔵氏。岩澤教諭が、「中学生の時読みたい本を図書館で借り、リヤカーで運んだ」などと体験談を披露したうえで、「この人はわずか四畳の古本屋から出発したけれど、今では年間の売上高30億円を超える大きな会社の社長になった」と解説すると、生徒らは興味深そうに聞きいっていた。

 その後、職業の適正を調べる自己発見シートを生徒に配布。生徒たちは「貧乏になっても波乱万丈の人生を送りたいか」などといった30の質問に「はい」と「いいえ」に○をつける方法で回答し、自分自身が知性派か芸術家タイプかなどを探った。

 江口昌一副校長が、「米国のベンチャー授業では中学生は活発に質問する。熱心に何でもやってみようという人は社会に出ても通用する」と締めくくった。

 授業を終えた岩澤教諭は「準備が大変だったが、生徒に関心を持ってもらえた」とホッとしていた。



D担任の先生を売り込め

 「担任の先生を、学校以外の職場に売り込みに行こう」

 初芝中学で4月25日に行われたベンチャー授業は、こんなユニークなテーマが生徒に与えられた。

 1、2年の生徒たちがグループに分かれて知恵を絞った。2年のクラスでは生徒がアイデアを出して議論する「ブレーン・ストーミング」をして、グループ代表が教壇に立って結果を発表する「プレゼンテーション」に挑戦した。

 売り込み先は農家、交通業界、病院など。そのひとつ、女性教諭を百貨店に売り込んだチームが、こうアピールした。
 
 「先生はアメリカに10年間いたので英語は抜群。外国人客にも適切に対応できる。また少林寺拳法の心得があり、万引や怪しい人にも応じられる。声が大きくはっきり話すことができるので、アナウンスにもうってつけ。子供が好きなので迷子の面倒もOKです。こんな先生をよろしくお願いします」

 1年のクラスで男性教諭をタクシー会社に売り込んだ生徒は「先生はお客さんとのコミュニケーションがうまく、乗客に喜んでもらえる」などとPR。どのグループも、よく知っている“商品”だけに特徴を分かりやすく説明していた。